多くの患者は、多かれ少なかれ病気や死に対する不安を持っています。
あるいは過去の歯科治療の体験から医療や歯科医師に対して信頼感を持っている者もいれば、不信感を持っている場合もあります。
また、病気に関連して経済的、あるいは仕事上の問題について悩んでいたり、患者自身の医療知識によって病気や処置に関する自己流の判断や解釈をもっていることもあります。
患者は、このような複雑で不安な感情を抱いて、外見上は病気の治療を求めて受診してきます。
われわれがこのような患者の感情やニーズなどの内面を無視して対応すると、その場では診断や治療に対して表面的に納得や了解を示していたのに、
帰りにはその足で他院を訪れたり、来なくなってしまう理由になります。
社会的に、患者は歯科医師を選択して診察を受ける権利をもっており、歯科医師は患者の要求によって治療する義務を荷っています。
このような現代の社会状況において、患者は歯科疾患に対する治療的要求と社会からの逃避的要求、そして複雑な感情と過敏な反応性を秘めて、
歯科医師が設定した治療場面に入ってきます。
最初、医師対患者という関係は感情的交流を避けた、できるだけ理性的なとりかわしがなされます。
しかし、患者がどのような要求をもって受診してきたかを知るためには、心理的な面にまで接触しなければ明らかにはなりません。
このようなことから、患者を理解する正しい面接技法を知ることは歯科医師にとっても必要です。
人間は大人になっても、病気になったり、高齢化したり、社会あるいは家庭的問題で悩む不遇な状態になると、人に頼りたい、かまわれたい、大事にされたい、
という気持ちが強くなります。同時に、他人が自分に示す態度に対してひどく敏感に受け取るようになります。
特に、人間が病気で苦しむ時には、このような気持ちが強くなっていると考えてよいです。
普段は客観的で安定した人でも病気になると自己中心的になり、ものごとに対する解釈や判断も主観的になりがちです。
このようなところに、歯科医師が行った当然の処置や会話についても感情的な食い違いが生じるのです。
歯科医院を訪れてきた患者には、受診動機となった主訴に関することと、それに伴う心理的、社会的、経済的な、いろいろなニーズが存在します。
治療者側が患者のニーズを配慮することなしに、主訴のみに対応して診断・治療を行うと、局所的によい治療が行われていても、
結果的には患者が不満をもったり、予後が悪いことがあります。